細長い針のような武器フルーレ、エペ、サーブルで高速かつ精密に敵の弱点を狙い穿つフェンシング。狙う的はホクロのみ。正確無比なフルーレコントロールが求められる。現役オリンピック選手なら誰もが可能だ。
全身のほくろの部位と数は大会規定で全選手統一されている。例えば顔に2ヶ所。首から上なら、場所はどこでも可とする。眉間の真ん中で千昌夫スタイルか、泣きぼくろの魅力で籠絡にかかるか、ここにも戦術が要求される。相手にとって色んな意味で突きづらい場所を選ぼう。
選ぼう、といってもそれは付けボクロの話に留まる。もともと身体にあるほくろは「天然物」のホクロという希少性を高く評価。攻撃がヒットするとポイントを倍の2ポイント取得できる特別ルールとなっている。。対戦相手は積極的に天然ボクロを狙い打ち、自分側は重点的にディフェンスしつつカウンターのチャンスを伺う。またはその裏を掻くような駆け引きが生まれる。
見た目には付けボクロに相当する「養殖ボクロ」と天然ボクロの違いが分からないため、実際に突いて反応を確かめる試合運びとなる。天然ボクロのほうが生身だから養殖よりも少しだけ痛がる素振りが強い。そこを見極めた者が金メダルに近付く。
なおホクロ限定フェンシングはホクロを狙うため、防具のジャケット、マスク、ニッカーズ、グローブなどすべて透明である。大会規定数以上の天然ボクロがある選手は、余剰分のホクロにファンデーションやピップエレキバンを施して限界ホクロ数以下まで隠す規定となっている。
懸念材料がある。ポイント2倍の天然ボクロを増やすため、余っている部位や他人からのホクロを移植する整形外科手術が横行しかねない点だ。現代のプチ整形テクノロジーは高度に自然な仕上がりを実現している。
ほくろフェンシング競技は創設されたばかりにも関わらずゲーム性が破綻する危機に瀕している。天然ボクロと養殖ボクロの差異をなくしてポイント2倍を撤廃し、ホクロから生えた毛をどれだけ刈り取れるかを競うなど抜本的な見直しを迫られるだろう。