放課後、高校生の男女が雨の中、相合傘で下校してるのを目撃すると。
ああ、早く晴れないかなぁ、と思います。
良いものですよね、相合傘。
ロマンティックに愛逢傘とも書いたり。
黒板にチョークでふたりの名前を書くのも照れくさくて素敵ですが、ここでは雨で普通の傘を二人で共用して歩く本物の相合傘をしましょう。
某国で帰省シーズンに人気のレンタル彼女とか、そこまで本格的な内容のサービスは残念ながら一切しません。
相合傘代行サービスは、あくまで雨の日限定、屋外限定、ドアツードアでご利用いただける、即席リア充サービス。
刹那のトキメキを、あなたに。
傘を忘れて雨が降ってきたらご用命を
学校や仕事が終わって建物の外へ出ようとしたのに、突然の土砂降りの雨。
天気予報がウソをついたよ。
あちゃー、傘持ってきてないな、どうしよう。
近くのコンビニまでダッシュして一番安いビニール傘を買うのもなぁ。
お金もったいないよね。
不意に後ろから傘がさされて「良かったら、入れば? 偶然、傘の中が半分あいてただけなんだから。か、勘違いしないでよね///」と明らかに好き好き光線を発しながら誘ってくる幼馴染な女子の知り合いもいないし。
そういえば最近、好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかと考えることもなくなったなあ。
このままじゃ私のメモリアルは駆け抜けてゆくばかりだよ。
しょうがない、タクシー券でも使ってタクシー呼ぶか。
確かチケットがコートのポケットの中に。ごそごそ。
あれ? 身に覚えのない名刺が。
・・・相合傘代行のご用命はこちらの電話番号まで。
刹那のトキメキを、あなたに。
なんだか意味が分からない。
でもまあ、とにかく誰かが傘を持ってきてくれるんだろう。
ダメ元で電話してみるか。
もしもし。
なるほど、ホントに傘をここまで持ってきて頂けるんですね。
じゃあお願いします。
まだかなー。
ぱしゃぱしゃ。
雨の中を小走りに近寄ってくる足音が聞こえる。
高校生くらいかな。
私と違う性別だ。
ホントに来た。
黙って自分を傘に入れてくれる。
どこに行くかは、こちらまかせらしい。
うーん、この。
傘を2本、持って来てくれれば済むんじゃないかと言い出せない雰囲気。
異性のスタッフが自宅まで相合傘
雨の中を相合傘で歩き出す二人。
気まずい。
ほとんど話したことのない異性と、突然の相合傘という状況。
でも、なんだか懐かしい気もする。
あれは高校生の頃。
いや、中学生だったかな。
うまく思い出せない。
でも不思議とイヤじゃない。どころか。
なにかな、会話らしい会話もないのに。
このままずっと雨の中を二人並んで歩き続けていたい気持ちは。
時々、高さの違う肩と肩が触れ合って離れる。
まだ自宅には着きたくない。
いつも通る道が短く感じて、どうしてもっと長くないんだと恨めしくなる。
そしてこんな時に限って、時が経つのは無駄に早い。
うちの前まで帰ってきた頃、雨も小降りに落ち着いてきた。
結果論だが途中で晴れなくて良かったと素直に喜ぶ気にはなれない。
もうすぐお別れだから。
誰と?
認めたくないけど、相合傘代行スタッフ以上でも以下でもない誰かと。
誘いの言葉が出る寸前でさよならしてしまう思い出まで忠実に再現
「寄っていきなよ」
誘いの一言は、寸前で雨の中を走り去る足音にかき消され。
ホントに刹那だったな。
ふう。家についたし、コートを脱ごう。
ん? また身に覚えのない紙が。
・・・ご利用頂き有難うございました。
この領収書を次回利用時にご提示で10%割引。
書いてある文章はこれだけ。
よくある申し訳程度のクーポン要素。
また同じコに頼めるだろうか。
きっと、無理だ。
前回と同じ代行スタッフに相合傘は指名できない。
なぜなら、そんなことができたら。
このトキメキが、刹那じゃなくなってしまいそうだから。