ネットは広大、という認識は今も視聴者のゴーストに刻まれている。
劇場版アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はProduction IG制作、押井守監督により1995年に公開され、日本映画で初めての全米セルビデオチャート1位を記録した。
20年前のアニメだが、いま観ても色褪せない。荒巻部長は渋いし、バトーは頼りになる大男だし、少佐はクールビューティゴリラだ。画、音、動き、エフェクトを介して電脳世界の儚さを疑似体験できる。
2017年の今年4月、ハリウッドでスカーレット・ヨハンソン主演のリメイク実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』が日本でも公開される予定となっている。
良い機会だ。有名なセリフの紹介はもう既出だろうから除くとして、今更ながら個人的な名セリフを7つ挙げろ。そう囁いている、私のゴースt(略
1.「遅刻して来たお前の為に、親切な俺が説明してやるとだな」
主役は遅れてやってくるものであり、本作も例外ではなかった。そんな主人公に対して親切な助演男優がとても分かりやすい説明セリフを提供してくれた。彼にはツンデレなところがあり、黙って助けるのではなく若干の照れ隠しをアピールすることが多い。「あんたが遅れてきたから、わざわざ親切に教えてあげるんだからね。べ、べつにこれは視聴者のためであって、あんたを困らせたくないからじゃないんだから///」
2.「(清掃車を)見たよ。で、ゴミ持ってきたらもういない。一人が電話掛けてたんで間に合うかと…」
ゴミを出しにきた名も無きおっさんのセリフ。何がすごいって、この短い一言の中に現場の知りたい状況を鮮やかにまとめてあること。まず「見た」と手短に結論を伝え、「ゴミ」から「もういない」と時系列をまとめ、「電話」という重要な手がかりまで与えてくれた。その場にいた攻殻機動隊メンバーのミスは、直ちに彼をスカウトしなかったことだ。
3.「だから、奥さんも娘も離婚も浮気も全部偽物の記憶で、夢のようなものなんです。」
脳を操られて偽りの人生を上書きされていた哀れな清掃業者を諭したセリフ。20年前の若い当時は可哀想に、と同情したものだが、離婚や浮気が夢であってほしい、と本気で望む人のほうが今や多いのではないか。となるとゴーストハック技術は都合の悪い記憶を消したり改変するために使われることが一般的になるかもしれない。
4.「くだらねぇ!」
ツンデレ主人公の少佐も、時には弱気な素振りをみせます。自分を信じる根拠を見失いそうな疑問に囚われそうな彼女に、ヒロインであるバトーさんが振り向きざまに「くだらねぇ!」と一蹴。このセリフが名台詞というよりも、その時に少佐が一瞬「素」の顔を見せた。いつもの男勝りでも強気でもない、意外な驚きにきょとんとしたこの表情がとても魅力的だったし、その時の上半身が肩とデコルテを露出し胸の形が良くわかるタンクトップだったのもポイントが高い。
5.「心肺機能の制御に入れ」
敵スナイパーが地上にいる主人公達を上空の戦闘ヘリから狙撃する際の交信内容の一言。そう、近未来の世界では1ミリ以下の精密射撃においては、呼吸による肺の膨張と収縮や心臓の律動がライフルの弾道に与えるわずかな誤差さえも制御する。現代でも寒冷地で手の震えを抗痙攣薬ジアゼパムで抑えたり、視力を向上させるためにブルーベリーを大量に摂取したりとガチスナイパーは努力している。おそらく他にも気温や風向など気象条件、ヘリの挙動、コリオリの力、精密GPS、衛星リンクなど数多くのシステム処理が背景にあることを伺わせる名セリフだ。
6.「戻ったら懲罰でもなんでも受けるわ」
ん? 今、なんでもって言ったよね。あの少佐に何でもしていい、させていいなんて。いや、何かやましい変なことしたら、その後に少佐から想像を絶する報復を受けるかもしれない。ゴーストだけになって広大なネットの海に逃げても、少佐のことだから底引き網漁のごとく掃海して必ず釣り上げられるだろう。ゴーストハックされて、まな板の上のコイも同然だ。そうか、これが、片思いの相手に抱く恋…。
7.「やっとで弾切れか」
寝そべった彼女はそういうと、着ているジャケットを胸の前から大胆に脱ぎ出した。その下には柔肌と変わらない薄手のフィットタイツしかない。全身を覆うその一枚だけの姿を遠くから観察すると裸に見えても仕方ない。彼女は体中をしならせて様々なテクニックを駆使して相手の弾という弾を放出させた。執拗に搾り取られてもう弾切れ。これ以上どんなに交戦しても何も出ないのに。「やっとで弾切れか」。まるでこれからが本番だといわんばかりに、仄かな期待と絶望的な不安を禁じ得ない彼女屈指の名台詞である。
劇場版アニメ「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」は難解だと揶揄されがちだ。確かにそんな一面もあるかもしれない。多少の誤解、色眼鏡、変な目で見ているファンは自分だけではないはず。そもそもサイバーな近未来の世界は刺激に満ち溢れているのだ。今度は実写で楽しめる。何を感じ、どんな目で鑑賞すべきかは、映画批評家のレビューを待つまでもなく、視聴者一人ひとりのゴーストが本能的に囁いている。