どこでどう歯車が狂ってしまったのか。
社会の歯車に就職する10年以上も前から、服のボタンはかけ続けてきたはずなのに。
今となってはどうでもいい。一つだけ言えるのは、もう二度とボタンをかけ間違えたくはないということ。
釦をかけ間違えるのは恥ずかしい。
そんな当たり前の感情が、有感地震のように忘れた頃にやってきた。
ちぐはぐに掛けられたボタンに
朝の慌しい時間こそボタン掛けを代行
シャツの裾を入れて、食パンを咥えて、曲がり角でタイミングを見計らって。
朝の遅刻しそうな時はどんな小さな動作であっても、できれば他の人に代わりにやってほしいと諦め半分で思うものです。
ボタンかけ代行業者へマンスリー契約等の長期ご契約をいただくと、代行スタッフがあなたの自宅近くのマンスリーマンションにてスタンバイします。
このシステムにより、早朝の起床する
期間契約可能な物件が存在しない場合は、長期の屋外宿泊に耐えうるキャンピングカーを手配して近隣の問題ない路上に駐車します。
もし不審な車を目撃しても、無闇な通報はお控えください。ボタンかけ代行業の職務遂行に支障をきたし、お客様へ万全のサービスを提供できない事態が危ぶまれます。
冬はコートのボタンを完璧に閉めて防寒対策
先進国に生きる我々は忘れがちですが、人がいつどこで遭難するかなど誰にもわからないのです。
突発的な地震や土砂災害による陸の孤島など、毎年のように生まれているではありませんか。
2015年はこれから夏本番ですが、4月の北海道で17年ぶりに真夏日を観測するなど地球の気象条件は全く信用できなくなっています。
8月の沖縄に真冬日が発生するなんてフィクションだと思いますか?
極寒の石垣島でもコートを着込んでいるから遭難しないで助かると思ったら大間違いです。
コートのボタンが偶然かけられていなかっただけで、散っていった不運な英雄のなんと多いことか。
東京にお住まいの皆様は、足の下が昭和51年から東京砂漠と謳われてきたことを自覚してください。
砂漠の夜は冷え込みますよ。
デート前のボタン装着だけを客観的にチェック
シャツのボタンを一箇所だけ閉め忘れていたり、最初のボタン穴がずれたことに気付かなかったばかりに全体をひとつづつ掛け間違えて無様にアシンメトリーな着こなしを演出して大失敗するデートは、この世から駆逐しましょう。
1ミリメートルの狂いも許されない高層マンション建築の現場に匹敵する精度で指差呼称して、あなたの正しいボタン掛けを目視確認します。
社会の窓についても実際に触診して、ファスナーが食い込んでいるか、開ける必要に迫られた肝心な時に不具合なくスムーズに開閉できるかを、時間短縮のため服を着たままの状態で直接触ってメンテナンス。
デート中といえど、ボタン絡みのトラブルによる破局は避けたいものですね。
カラオケの隣の部屋、ボーリングの隣のレーン、レストランの隣の席、ホテルの隣の部屋から、ボタン着脱管理スタッフの監視の目が光ります。
あなた以外の他人の手によってボタンを開けさせることは許しません。
もし合意の上で合っても服を脱がせる流れでボタンに手が掛かったら、実力行使でこれを阻止しますのでご安心ください。
無事に帰宅し、ワイシャツのボタンがボタン掛け代行スタッフの熟練した手つきによって外され、代わりにパジャマのボタンがプロの技で掛けられてベッドで就寝なされるまで。
今日という一日が最後まで滞りなく運命の歯車に狂いなかった夜を確認するまでが、ボタンかけ代行の責任あるお仕事です。